大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和53年(あ)763号 決定 1979年9月19日

本店所在地

和歌山県海南市藤白二〇一番地の二

株式会社 丸山組

右代表者代表取締役

田利都

本籍

和歌山県海南市日方一二七一番地

住居

同所一二七三番地の三三

会社役員

田利都

大正一五年一一月一五日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、昭和五三年二月二二日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人和島岩吉、同川中修一、同小野田学、同黒川勉の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 塚本重頼 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 監野宜慶)

昭和五三年(あ)第七六三号

○ 上告趣意書

被告人 株式会社 丸山組

右代表者代表取締役 田利都

被告人 田利都

右被告人らに対する各法人税法違反被告事件について左の如く上告の趣意を陳述します。

昭和五三年六月二三日

右弁護人 和島岩吉

同 川中修一

同 小野田学

右弁護人 黒川勉

最高裁判所第二小法廷 御中

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすべき重大なる事実の誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。

被告人は原審において、第一審判決判示第三の所得金額一三五、七六三、五五四円、法人税額五〇、八九六、三〇〇円(犯則所得金額七五、八三七、一八五円、ほ脱法人税額三〇、三〇九、四〇〇円)について、その算定基礎となった費目のうち、第一審が架空の工事原価(外注費)と認めた金場工業株式会社(小野田グリーンランド貯水槽工事分)に対する外注費三九〇万円および株式会社浅川組(海南駅前改良住宅建設工事分)に対する外注費二、〇〇〇万円については、昭和四九年一二月一日以降(昭和五〇年一一月期)において支出が確実に予想され、前記三九〇万円は昭和五〇年九月に決済がなされているなど合計二、三九〇万円の外注費はいずれも架空のものではなく、現実の損費として計上することを認めるべきであったこと、及び被告会社代表者、被告人本人の田利都には右各外注費が昭和四九年一一月期に計上できない架空のものであるとの認識はなく、所得金額の一部を秘匿してこれに見合う法人税をほ脱する故意はなかったと主張した。

これに対し、原判決は「記録を精査しかつ当審における事実取調の結果を仔細に検討してみても原審が前記外注費を架空の工事原価であるとして所得計算から除外したことおよび被告人らに対する当該法人税ほ脱の犯意を認めたことについて事実認定上の過誤は全く見当らない」と判示し、特に右法人税ほ脱の犯意について「被告人田と被告会社経理担当の取締役中谷千鶴代及び経理課長平岩常男らとの間の事前謀議および犯行態様に照らし、右の犯意は前記二つの架空外注費の計上を含めてこれを認めるに十分である」としている。

しかし乍ら、真相は被告人会社の期中におけるその都度その都度の裏資金取出しの結果、期末における計上すべき利益の額が低くなったので、被告人田が被告人会社の体面の維持、主として官庁における指名入札業者としての地位確保の必要上(その業者の完成工事高如何が常に問題とされる)昭和四九年一一月期に未完成工事の一部を完成工事として埋合せのために利益として計上し(記録一五八三丁等)-その計上した未完成工事といってもほゞ完成に近づいた工事、即ち九分九厘終ったものを完成工事として計上したもの(一五八二丁)-その完成工事によって得られる利益に見合う費用を見込みの金額として算出したものの一部が右の三九〇万円と二〇〇〇万円であり、その見込費用額などが記載されているメモが記録九四二丁、九四三丁、九八〇丁あるいは一四四八丁のメモであり、これが脱税のためのメモと曲解されて捜査の端緒となったものである。

そして右のメモは昭和五〇年一月一〇日頃作成されたのであるが、折しも一月末から二月にかけて建設業者の能力審査があるのでそのための資料を作成しなければならなかったということも右メモの作成の動機となっていたのであり、さらに右メモ中の株式会社浅川組に対する二〇〇〇万円などの数字は被告人田と右平岩らが相寄り、工事台帳などにより工事原価、未払原価、未払い金等を全て調査のうえ、爾後確実に支払の予想される費用金額を算出したことは平岩常男の原審公判供述より明らかである。

即ち、被告人会社が株式会社浅川組と共同企業体を組んだ海南市駅前改良住宅建設工事については工事実施予算書(弁第一五号証の一)によると工事請負金額合計四億七二〇〇万円(そこで被告人会社の取り分の予定金額としてはその二分の一の約二億三五〇〇万円となる)であったが、昭和四九年一一月三〇日現在の支払原価は一億三六、二三五、三九〇円であり、同期の未払計上額(債務としては確定しているが支払が未済の工事原価)は四二、〇二六、三六一円であり(弁第一五号証の二)右の約二億三五〇〇万円と工事原価との差額は約七〇〇〇万円ということになり、これによると右工事の荒利益の率は約三〇%に近いものとなり、現実には考えられない高率(現に工事実施予算書-弁第一五号証の一によると右工事の荒利益率は一二・二五%である)となるので、従来からの工事の経験により少なくともあと二〇〇〇万円位は手直し工事等の費用として必ず支払が予想されるものとして被告人田が計上したのが右の二〇〇〇万円である(以上、原審における被告人田の公判供述)。

右の経緯からすると、他の事業年度において被告人田が被告会社の裏資金を確保するため、架空の工事原価を計上するなどして、右仲谷や平岩と共謀して所得を秘匿しようと企図したことは事実としても昭和四九年一一月期については少なくとも右の二つの工事に関しては(少なくとも右の二三、九〇万円に関しては現実に出損された額は右金額以上である)被告人田において所得を秘匿し税金を免れようとの故意はなかったものである。

現に被告人田は原審公判廷で海南駅前工事につき、二〇〇〇万円を見込費用として計上すると五〇〇〇万円の荒利益となり(利益率として大きすぎること自体問題であるが)自分としては次年度において精算すればよいのだから、その当時差し支えないと思っていたと供述しているのである。

しかるに原判決は右平岩及び仲谷との事前謀議および犯行態様から漫然と右二工事分についても被告人田につき法人税ほ脱の故意を認めているのであって、これは証拠の評価を誤り判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認を犯したもので、これを破棄しなければ著しく正義に反すると考えられる。

第二点 原判決は刑の量定が甚しく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。

ほ脱事犯の量刑はほ脱額が多額の場合、懲役刑が選択されることがある。

この点、最近耳目を集めた事件について判決が下された。華道草月流の家元に対する三億四〇〇〇万円の所得税ほ脱事件であるが、東京地裁は昭和四七年四月一二日右事件について罰金一億円の判決を下し、さらに東京高裁は昭和五一年一二月一五日、被告人の右犯行に対する関与の態様ないし程度が悪質と認めるに足りる証拠はないこと、被告人の謹慎の様子が顕著であること等を理由として原判決を維持した。(判例タイムズ三四九号二六三頁)

右事件はほ脱額の高額であること、被告人が有名人であること等で注目を浴びた事件であるが、「脱税は犯罪になることはあっても、たかがお金の問題で被害者を恐怖に陥れる兇悪犯とはわけが違う。こういう犯罪にはまず財産刑で不利益を与えるのが筋合だろう。初犯から懲役刑をもって臨むのは、この種の犯罪に対する科刑としては過酷の感を免れない」(植松正「法のうちそと」ダイヤモンド社刊二一八頁)

原判決は被告人田利都に対して懲役八月(執行猶予二年)の体科を科し、株式会社丸山組に対しては罰金一四〇〇万円を科した。

しかし、右両被告人には次の様な事由がある。

(1) 被告人会社は本件のほ脱が問題となった後、即座に修正申告をしてこれを全て納入した後、三事業年度における法人税の重加算税の総額一八、一四二、二〇〇円をすでに支払い(検八七号証、弁一一号証の一乃至三)かつ、右三事業年度における法人事業税の重加算金の三ケ年分合計金五、四〇三、六〇〇円もすでに支払い(弁一二号証の一乃至三)また被告人田利都も所得税の修正申告をしてこれを全て納入し(弁一六号証参照)更正された所得税につき弁一〇〇号証の一乃至三のとおり、昭和四八年度乃至五〇年度における過少申告加算税等及びこれにかかわる府県民税等を全て納入し、後の年度においては全て適法に納税し被告人らの反省の情が顕著であること。

(2) ほ脱行為のあった昭和四七年一一月期乃至昭和四九年一一月期は、折しも日本経済がそれ迄の順調な発展期を経過した後の動乱期に入り、先行見通しのつかない極めて不安定な時期であったことなどから、被告人田としては必らずや来る不況期に備えて会社の資産内容を整備するためにほ脱を行おうとしたものであり、被告人会社及び会社関係者の生活を守る立場にある被告人田としてその職責と立場上苦しいものがあることは理解できるところである。

ほ脱行為は国家の財政上の基盤と徴税の公平を侵害するものでもとより許されるべきことではないとしても本件が被告人田の私利私欲のための行為ではなく(被告人田において右ほ脱により留保した裏資金を個人的に利用するようなことは一切なくその多くは企業内部の充実発展のために充てられた会社防衛のためのものである点及び被告人田は右内部留保などにより被告人会社丸山組を勤労者財産形成貯蓄制度のモデル事業所として育て上げ、和歌山県労働基準連合会の「労基ニュース紀の国」(弁第一三号証)に紹介されるまでに至っている点を有利な事情として是非とも酌んでいただきたい。

(3) さらにまた、前述の期末における未成工事の収益に見合う工事原価の計上という方法は、仮に法律上債務の確定していないものを掲げたという意味では違法であるとしても全然存しないものを掲げたという意味での架空ではなく、翌期(翌年度)に計上すべきものを早目に計上したもので、世上よく見受けられる利益計上を繰のべしたり、損費だけを計上したりする一般の脱税方法と比較すればその方法において悪質とはいえないのである。

(4) あまつさえ、本件が地方新聞に報道され(一六〇六丁、被告人の原審における最終陳述参照)被告人会社丸山組は昭和五二年三月から六月に至る迄、和歌山県及び海南市の指名入札業者から外され(指名停止)和歌山市からは入札業者として同五二年三月から現在にいたる迄、指名停止になったままであり、企業として既にそれなりの社会的制裁を受けているのである。(被告人田の原審公判供述)

(5) もし被告人田が禁錮以上の刑に処せられると、右田が代表取締役をしている被告人会社丸山組は国や和歌山県等の官庁の入札業者から外され(一ケ月乃至九ケ月あるいは一年間の指名停止措置をとられる恐れがある-弁第一七号証-がそうなれば被告人会社丸山組に致命的な打撃を与えることは火をみるより明らかである)、また同じく被告人田が代表者となっている丸山組不動産株式会社及び紀州土地開発株式会社は不動産取引業の免許を取消され(宅地建物取引業法六六条三号、五条一項三号)また被告人田は二級建築士の資格を有しているが、建築物の設計工事監理の事務所を今後開設することができなくなるのである。(建築士法八条参照)

このような立場にある被告人田に対して執行猶予とはいえ懲役刑を選択することは、それに付随する不利益が余りに大きく苛酷にすぎるといわざるをえない。

被告人両名には右の如く再犯のおそれはなく、すでに課税上その他の諸々の制裁が加えられていることからしても、原判決の被告人両名に対する科刑は重きに失するものであり、特に被告人田に対しては罰金刑で望むのが相当である。

以上、原判決の被告人両名に対する刑の量定は甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するものと思料し本申立に及んだ次第である。

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